私の体験を元にしたフィクションです。
湯気のある食卓
朝、カップから湯気が上がっていました。両手で包むと、指先がゆっくり温まりました。以前は、飲み物を置いたことさえ忘れ、冷めきった頃に手を伸ばすことがありました。今朝は、温かいうちに口をつけました。
個人再生の返済は、今も続いています。借金がなくなったわけではありません。支払う額を確かめ、生活に使うお金を考えます。予定を見れば、次の支払いがあります。それを見てすぐに、取り戻すための投資へ向かおうとは思わなくなりました。
無理な返済に追われず、支払える範囲で返していく見通しがあることは、毎日の過ごし方を変えました。食事の途中で話を聞き、仕事から帰って、次の日の支度をします。ひとつ済んだら、次のことを考えます。特別な出来事がない日を、そのまま終えられるようになりました。
債務整理を経て、暮らしが明るくなったのは私にとって事実です。ただ、その明るさを思い出すとき、頭に浮かぶのは大きな買い物でも、増えていく数字でもありません。言葉に詰まった私を前に、続きを待ってくれた人の顔です。
任意整理を軽く見て、投資と借入を続けたことは、今も自分のしたこととして残っています。あの頃へ戻って、何もなかったことにはできません。それでも、誰にも話せないと決めつけていた自分には、伝えたい言葉があります。
「もっと周りの人を信用して話してみて。」
机の上で、スマートフォンが短く鳴りました。私は画面を見てから、いったん伏せました。向かいの話が、まだ途中でした。カップを置き、「それで、どうなったんですか」と尋ねました。